ホームインスペクションを利用するタイミングを利用目的別に解説
住宅購入時やリノベーションの際など、様々なシーンにおいて利用され、普及してきたホームインスペクションですが、それでも何度も繰り返し利用したという人は稀です。
ほとんどの依頼者は、はじめての利用ですから、どういうときに、どのようなタイミングで依頼すればよいか迷うものです。
そこで、このホームインスペクション(住宅診断)が実際にはどのようなタイミングで利用されているか、そしてインスペクションのプロがお勧めするタイミングを紹介します。最初に、インスペクションに関する基本を説明し、その後に4つの主な利用目的を紹介した上で、その目的別に利用するタイミングを解説します。
ホームインスペクションとはどういうものか
ホームインスペクションを利用するタイミングを知る前に、まずは、インスペクションのことを正しく理解しておく必要があるでしょう。間違った認識で利用しようとしてもタイミングを誤るばかりか、全く意味のないことになって、支払った費用を無駄にしてしまうリスクもあるからです。
ホームインスペクションとは?
ホームインスペクションとは、住宅の建物について、住宅の建築に詳しい専門家が、その施工品質(施工ミスの有無など)や劣化状態を調査する専門的な技術サービスです。
調査を行う専門家とは、不動産業界ではホームインスペクターと呼ばれていることが多いですが、一級建築士・二級建築士・木造建築士や既存住宅状況調査技術者といった資格を持つ者であることが一般的です。
新築住宅では完成物件も建築中も検査する
新築住宅においては、建物の施工ミスの有無を調査するのですが、完成後に行うものだけではなく、基礎工事から完成するまでの間、つまり建築途中に行うものもあります。完成後だけ実施するよりも、より高い安心感を得られる建築途中の依頼者が増えています。
中古住宅は売主も買主も依頼する
中古住宅においては、売買に際して利用されることが非常に多いですが、売主も買主も依頼しています。
売主は、買主に安心してもらうことで販売促進につなげたいということと、建物の著しい劣化などを事前に告知することで売却した後のトラブルを抑制することを目的としています。
買主は、購入後に想定外の補修費用などの負担を減らしたい、安心して買いたいという目的で利用しています。
調査費用
ホームインスペクションの調査費用は、対象物件の所在地・規模・利用するオプションサービスなどによって、様々ですが、新築一戸建ての完成物件や中古一戸建てなら、5万~15万円の範囲であることが一般的です。
建築途中のインスペクションなら、検査回数によって大きな差異があり、10回程度の検査を依頼すると、50万円を超えることが多いです。
分譲マンションの1住戸に対して依頼する場合は、4~6万円程度であることが多く、一戸建て住宅より安い傾向にあります。その理由は、マンションでは調査範囲が限定的になることと、調査の所要時間が短いことが挙げられます。
ホームインスペクションのメリット
ホームインスペクションを利用するメリットは、建物の状態を知ることで、購入判断や売却時の資料、リフォーム・修繕に活用できる点です。建物の専門家の調査結果やアドバイスを得られることは、建築知識と経験がない人にとっては心強いものとなります。
ホームインスペクションの依頼なら
第三者の一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)は、住宅売買・メンテナンスなどに役立つ専門的な技術サービスです。施工不具合や補修すべき劣化事象の有無をプロに診てもらえる。
ホームインスペクションの利用目的
「ホームインスペクションとは」でも紹介した通り、主に以下の目的のためにホームインスペクションが利用されています。
- 住宅購入時の購入判断材料のため
- 住宅の新築時の品質管理のため(欠陥工事を未然に防ぐため)
- リノベーション(リフォーム・補修等を含む)の判断材料のため
- ご自宅の点検のため
以上の4つの目的ごとに利用するタイミングには違いがありますので、それを以下で解説します。
住宅購入時の購入判断材料のため
新築完成物件や中古物件を買うときに、その購入判断の参考とするためにホームインスペクション(住宅診断)が活用されていますが、利用するタイミングには以下の3つがあります。
売買契約を締結する前
売買契約を締結する前にホームインスペクションを利用する人は多く、特に中古住宅の売買に際して利用するのであれば、契約前の利用者が大半を占めています。
ホームインスペクションの診断結果次第では、購入を中止したり他の物件を買ったりすることができるメリットがあります。また、契約前なら、売主への補修要求などの条件提示をしやすいというメリットもあります。
売買契約の締結後、引渡し前
売買契約の締結後、引渡し前のタイミングでホームインスペクションを依頼する人もいます。新築住宅の場合は、このタイミングで利用する人は多いのですが、中古住宅を買う人の場合は少数派です。
新築では、引き渡しを受ける前に、施工不良が無いかチェックする目的で利用されています。
中古では、インスペクションの診断結果に関わらず購入すると決断している人や、引き渡し後の早い時期にリフォームやリノベーションをするため、引渡し前に建物の状態を把握したい人が、このタイミングで利用しています。
引き渡し後
ホームインスペクションの診断結果に関わらず購入すると決断している人や売主や不動産会社から売買契約前の利用を断られた人が、引き渡し後に利用しています。また、購入後の補修工事や建物のメンテナンス、リフォームなどに活用したいと考えて、引き渡し後に利用する人もいます。
プロがお勧めするホームインスペクションのタイミング
ホームインスペクションを依頼する最もおすすめのタイミングは、売買契約の締結前です。
その理由は、このタイミングなら以下の目的やメリットの全てを満たせるからです。
- 購入判断への活用
- リフォーム・補修すべき点の把握
- 売主との交渉のしやすさ
既に購入を決断しているとしても、想定外の著しい施工ミスや補修に100万円単位の費用が掛かる問題が見つかれば、購入すべきかどうか再検討することもできます。逆に、契約前に行う大きなデメリットはありません。強いて挙げるなら、不動産会社の抵抗にあって少し嫌な想いをする可能性があることくらいです。
住宅購入に際して利用するなら、できる限り、売買契約前のタイミングで依頼することを考えましょう。
ホームインスペクションの依頼なら
第三者の一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)は、住宅売買・メンテナンスなどに役立つ専門的な技術サービスです。施工不具合や補修すべき劣化事象の有無をプロに診てもらえる。
住宅の新築時の品質管理のため(欠陥工事を未然に防ぐため)
これから着工する新築住宅を買った人(つまり建築前の建売住宅の売買契約をした人)や注文建築でマイホームを新築する人が、その新築工事において欠陥工事(手抜き工事・施工ミスなど)が行われないようにチェックするために、ホームインスペクション(住宅診断)を利用するケースは多いです。
建築中のインスペクションで欠陥工事を抑制できる
新築工事の着工時から完成するまでの建築期間中に、利用者が希望する検査回数(もしくはホームインスペクション会社が提案する検査回数)の検査を行います。建築中の品質管理を第三者に依頼して、欠陥工事を未然に防ぐための利用であり、年々、利用者が増えています。
検査回数と検査タイミングは慎重に検討すべき
着工前からホームインスペクションを依頼する場合、検査回数や検査に入るタイミングによって、依頼者が得られる効果が異なります。また、建物の構造・工法・規模・工程によって適切な検査回数も異なるため、よくホームインスペクション会社と打合せして決める必要があります。
主要な構造部分のみの施工品質をチェックしたいのか、もしくは主要な構造部分以外(たとえば、下地材や断熱材など)のチェックもしておきたいのかといった利用者の希望によって検査回数が大きく異なります。
検査タイミングを検討する際に、依頼者が知っておくべきことは、主要な構造部分以外の施工不良が多いという現実です。たとえば、アネストが行っている住宅検査では、断熱工事において施工ミスがたびたび確認されており、その検査を希望する人は非常に多いです。
おすすめの検査タイミング
ホームインスペクションを20年以上してきた経験から、お勧めする建築中の検査タイミングを挙げるので、参考にしてください。以下は基本的に木造住宅をイメージした項目です。
一般的に想定される検査項目
まず、木造住宅において、一般的に想定される検査項目は以下の12項目です。
- 地盤改良工事の検査(地盤改良する場合)
- 掘り方(遣り方)の検査
- 基礎配筋検査
- 基礎立上りの型枠検査
- 基礎コンクリート打設時の検査
- 基礎コンクリートの仕上り・土台敷きの検査
- 構造躯体(柱・梁・筋交い・金物等)の検査
- 防水工事(外壁の防水シート等)の検査
- 断熱工事(主に外壁面)の検査
- 足場解体前の検査
- 下地材等の検査
- 竣工検査(完成検査)
12項目もあると多く感じると思いますが、できる限り、施工ミスを抑制しようと考えた場合、これくらいの検査対象があるということです。
お勧めの8ポイント
前述の12項目の中から、構造耐力に関わる工程と指摘が特に多い項目に絞って、プロがおすすめする項目は以下の8ポイントです。
- 基礎配筋検査
- 基礎立上りの型枠検査
- 基礎コンクリート打設時の検査
- 基礎コンクリートの仕上り・土台敷きの検査
- 構造躯体(柱・梁・筋交い・金物等)の検査
- 防水工事(外壁の防水シート等)の検査
- 断熱工事(主に外壁面)の検査
- 竣工検査(内覧会立会いと同等)
施工品質をチェックするには、これだけの項目を確認する必要があるということです。費用がかかることでもあるので、回数とタイミングについてはよく検討してください。
ホームインスペクションの依頼なら
第三者の一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)は、住宅売買・メンテナンスなどに役立つ専門的な技術サービスです。施工不具合や補修すべき劣化事象の有無をプロに診てもらえる。
リノベーション(リフォーム・補修等を含む)の判断材料のため
購入した住宅、相続した住宅などの持ち家をリノベーションするタイミングでのホームインスペクションについて解説します。
リノベーションとインスペクションをする人が増える
リノベーションをする人が増えておりますが、これにともないリノベーション時にホームインスペクションを利用するも増えています。これからは、さらにリノベーションの需要が高まり市場が拡大していくと予想されていますが、やはりホームインスペクションの利用者も増えるでしょう。
インスペクションの利用目的
リノベーション時のホームインスペクションは、希望するリノベーションを実施できるか判断するために、その建物の現況(その時点での状態)やプランを把握しようとして実施されることもあれば、リノベーション工事に着工してから、建物解体後や工事の途中、工事完了後に利用して施工品質を確認する目的の人もいます。
工事着手前の現況把握
リノベーションをする際、リノベーション業者と相談の上で、プランを決めることでしょう。その際に、リノベーション業者が自社調査をしてから、補修すべき点を提案してくれることもありますが、施主の要望を聞くだけで適切な提案をしてくれないことも少なくありません。
そこで、工事に着手する前の段階で、第三者のホームインスペクションを利用することにより、第三者の意見(補修・補強すべき箇所など)を聞くことが、メリットとなっています。解体しないことにはわからないことも多いですが、工事着手前の段階で可能な範囲の調査と、その結果としての意見・アドバイスが役立つことは多いです。
建物解体後のインスペクション
建物解体後に行うホームインスペクションでは、それまで隠れていた部位・範囲をチェックできるので、想定外の補修・補強が必要な箇所がないか確認することができます。
リノベーション業者が確認して適切に提案してくれることもありますが、予定していた通りに工事を進めようとして、必要な補修や補強を提案してくれないこともあります。そのため、第三者のインスペクション業者に依頼することで、客観的なアドバイスを得ることができるメリットがあります。
工事途中のインスペクション
リノベーション工事を進めていく工事の途中でインスペクションを利用することもできます。その工事の規模・内容・工程によって、適切な検査のタイミングがあるため、リノベーション工事の設計図や工程表をインスペクション業者に提出した上で、検査に入るタイミングを相談してください。
工期規模や工程次第では、1回だけではなく、複数回の検査が提案されることもありますが、予算も含めて検討しましょう。
リノベーション工事の完了後のインスペクション
全てのリノベーション工事が完了してから、引渡し前のタイミングでホームインスペクションを利用することもできます。完成状態で、施工品質をチェックしてもらうものです。
ただし、工事内容によっては、解体後や工事途中のインスペクションの方がお勧めであることも多いです。よって、工事に着手する頃には、インスペクション業者に早めに相談するとよいでしょう。
おすすめのタイミングはリノベーション次第で異なる
リノベーションにおいては、それぞれのタイミングによって利用目的が異なるものであり、工事内容や工程、利用する人の考え方でタイミングや検査回数が異なります。もちろん、現況・解体後・工事途中・完了後の全てにおいてホームインスペクションを利用するのも1つの考えです。
特に工事規模が大きい場合(価格にして500万円以上の工事費の場合)には、複数回の検査を考えるべきです。
ご自宅の点検のため
ご自宅(マイホーム)の建物の状態を把握するために利用する人もいます。
たとえば、「築30年程度が経過しており、具体的な問題点を感じているわけではないが、一度専門家の意見を聞いてみたい」、「新築で購入してもうすぐ10年が経ち保証期間が切れる前に専門家に診断してもらいたい」、「床鳴りがいつまでも収まらない・基礎にひび割れがある等の気になる症状があるため、念のために診てもらいたい」などと多様なニーズがあります。
また、雨漏りや床下漏水が発生したことをきっかけとして、一度、建物全体の劣化状態を確認しておきたいと言う人もいます。
そして、購入したときにホームインスペクションというサービスの存在を知らずに利用していなかったために、入居してから利用する人もいます。
マイホーム(持ち家)に対するホームインスペクションは、どのタイミングがよいと決められるものではなく、個々の事情や気になる症状などによって異なります。多くの場合、気になってきたときが、そのタイミングであることも多いですが、もう少し先の時期をホームインスペクション業者から提案されることもあります。
まずは、なぜ利用を考えたのかを自分の中で整理してから、インスペクション業者に利用するタイミングや自分たちの目的に役立つものであるか相談するとよいでしょう。
住宅を購入するとき、これから新築するとき、リノベーションするとき、そして自宅(持ち家)に対してホームインスペクションを利用する目的とともに、利用のタイミングを解説しましたが、将来まで長く、安心して暮らしていけるように、適切なタイミングでの利用を心がけてください。
執筆者
全国で第三者の一級建築士がホームインスペクション(住宅診断)を行うアネスト。新築・中古住宅の購入時やメンテナンス時などに建物の施工ミスや劣化事象の有無を調査することができる。
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